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大学院生による独り言と備忘録

夜の木について

夜の木

『夜の木』、第三世界と呼ばれる地域の文化芸術に明るい、もしくは出版業界とくに絵本に詳しい人であれば知っているでしょう。

日本ではタムラ堂が販売しているこの本は、インドのタラブックスにて手作業のシルクスクリーン印刷や職人の手仕事による紐綴じで生産されている絵本です。その原画はバッジュ・シャーム、ドゥルガー・バーイー、ラーム・シン・ウルヴェーティの三名の芸術家によって描かれています。私はそもそも『ロンドン・ジャングルブック』でシャームを知り、その流れでこの一冊を手に取りました。

タラブックスと言えば、無印良品の『みなそこ』をご存じであるかもしれません。一度タラブックスの本を手に取れば分かりますが、その本は挿絵一枚一枚がもはや一つの作品であり、額装して飾ってしまいたいくらいのクオリティで仕上げられています。『夜の木』や『世界のはじまり』(上記、シャームによる絵本)は売ってる場所が限られていますが、『みなそこ』は全国のMUJIBOOKSで販売されているようですので、是非ご覧になってください。タラブックスの本はどれも3,500円程度の価格で販売されていますが、手に取れば分かります。その本はもっと多大な価値を孕んでいると。

 

『夜の木』の話をしましょう。この絵本では19本の木に纏わる伝承が非常に平易な文章と共に、西洋でもあるいは日本とも全く異なった、独特の空気感を纏った挿絵によって紹介されます。私の持っている本は第8版ですが、それ以降も重版が行われています。

その挿絵のみならず、伝承それ自体も地域特有の空気感を有しており、私達の思う「日本昔話」のようにある人に焦点を当て起承転結が語られるようなお話ではなく、あるいは「●●童話」のように何かしらの作者の意図が透けたものではなく、もっと大自然に根差したような徒然なる世界観、人間と他の動植物の垣根が小さくなったように感じるお話です。異文化に触れることによってかえって自らの文化を知ることができると深く感じたのはこの本のおかげでしょうか。もちろん西洋の画家の企画展や様々な作品を通じてそう思うことはありましたが、改めてそれぞれ固有の文化に興味を持ったのは、この素敵な一冊に出会ったからでしょう。

 

私の趣味はカメラ、自転車、読書、音楽鑑賞、美術館巡り、食器集め、服飾等々ありますがもう一つ、絵本集めも入るでしょう。そのきっかけとなったのは、間違いなく『夜の木』や『敬虔な幼子』などのおかげです。

そういえば現在は世田谷美術館にて「こぐまちゃんとしろくまちゃん」の企画展が開催されています。

作者である、わかやまけんについてあまり詳しいわけでもなく、ただ一度企画展に訪れただけではありますが、彼の描くイラストのバランス感や空気、水の表現。絵本を描くという事に対する考には気づかされることがありました。単純な図形の組み合わせで表されるこぐまちゃんたちは、明るく強い色彩の背景の上に描かれており、その色彩もまた魅力的です。来月の頭までですのであと二週間ほどですが、是非一度訪れてみてはいかがでしょうか。絵本に纏わる企画展、私は非常に好きなのですが、これからも増えて頂けたらと思っております。