ココボロだとか好きだとか

大学院生による独り言と備忘録

オランガタンから考える、現代の多様性論争について

オランガタンの話。

『オランガタン』は1980年2月に「みんなのうた」にて放送されていた楽曲です[1]

歌詞では、青い色の幸せを良しとするオランガタンと、赤い色の幸せを良しとするオランガタンのお話が語られます。彼(女)らは、深い川を挟んでお互いがお互いを気にしつつも、それぞれがそれぞれの幸せを享受しておりました。

ある日、彼らを隔てる深い川が増水し二つの町を一つに変えてしまいます。その街では、もはや青と赤との別々の幸せではなく、色の隔たりを超えた紫色の、これまでとは全く違った不思議な幸せがあらわれるのです。

しかし、オランガタンたちは思います。もともとの青い色の幸せと赤い色の幸せの方がよかったのだと。そして二つの町を一つにした川はあきれて水を引き、再び彼らの町を二つに戻すのです。

そして、彼(女)らの町の空には青い色の幸せ、町の花には赤い色の幸せが戻りましたとさ、おしまい。

というお話です。

 

私自身、説教臭い歌詞や厭に物語性が強調された歌詞は嫌いなのですが、このオランガタンは目を見張るものがあるでしょう。それはやはり、紫色の幸せを最上のものとしなかった所です。二項対立からの止揚、そしてジンテーゼを生じさせるというものではないのです。

ヘーゲル弁証法的に言えば、「青い色の幸せ(テーゼ)」と「赤い色の幸せ(アンチテーゼ)」はともに対立するもであり、それでいてどちらに優劣があるものではありません。この全く対立するもの二つを統合し、新たな命題を考え出すことが止揚ですが、このオランガタンでは、止揚で生じた「紫色の幸せ(ジンテーゼ)」を最上のモノとはしません。ヘーゲル的には「紫色の幸せ」ができて良かったね。というところですが、それは1番までの話。起承転結で言う、起承までですね。

二番では、転として「やっぱり青と赤それぞれの方がよかった」と懐古するのです。私達も日常で問題があれば、それぞれの人が語る意見を統合し、よりよい意見を目指すでしょう。その手法は間違いではなく、この多様な現代を生きる上で必要な能力だと思います。しかし、それと同時に、「幸せ」といった概念そのものや「目的」という追い求めるものそのものは、何でもかんでも統合すればよいというものではなく、それぞれがそれぞれを思うままに、統合しないままお互いをお互いのまま認めることが重要なのではないでしょうか。

 

そして結では、元の二つの町へと戻り、元の各自の幸せを再び手にするのです。ここでは結局、青と赤どちらがよかったと語られることがなければ、紫が良かったといわれることもありません。

私はこの『オランガタン』こそが、この「多様性を認めよう」という社会の回答に思えて仕方ありません。現在の世の中は、大きな川の流れが「誰もにとってもよいで"あろう"紫色の幸せ」を作ろうとしている状況に思われます。オランガタンから学ぶとすれば、必ずしもこの「紫色の幸せ」は最上ではないのです。しかしながら、だからと言って紫色を目指さなくてよいわけではありません。一般論として二項対立の意見を統合することは重要でしょう。大切なのはあくまで、それが最上だと決めつけないこと、そして、誰かが再び「青色の幸せ」や「赤色の幸せ」を望んだのならば、彼らがそれを手にすることを止めてはいけないのです。それこそ、良し悪しや幸いなんてものは相対的で絶対的ではないからです。多様性を認めるということは、対立意見に潜む理想を見つけ出しつつ、個人が個人として追い求める理想を否定しないことです。

この流れがもっと大きくなり、いつの日か紫色ができた時、我々はきっとまた青と赤が恋しくなり、本当に大切なものに気がつくのではないでしょうか。

 

余談ですが、私は「命は平等」という言葉が大嫌いです。私にとって命は平等ではありません。私にとっては平等でなく、あなたにとっても平等ではないでしょう。家族や友人、目の前の人間の命と比べて、地球の裏側に存在する人間の命は優先度が低いでしょう。そしてそれは、地球の裏側に住む人間にとっても同じことです。誰にとっても平等ではないからこそ、「絶対的な価値・順位が存在しない」だけです。それを誰かが平等を呼び、必要な条件付けが忘れられたのだと思ってなりません。

 

以下、歌詞を載せて終わりにします。なお、歌詞は聞いたものを打ち込んでいるため、表記等が間違っている可能性がございます。以上

 

(女声)深い川の右の岸で

(男声)深い川の左の岸で

(女声)川の向こうすこし気にして

(男声)川の向こうとても気にして

 

(コーラス)オランガタン

 

(女声)ここでは青い色の幸せが

(男声)ここでは赤い色の幸せ

(女声)なにより美しいといわれてる

(男声)だれもが他の色を認めない

(混声)川はある日水を増して

    町を一つにした

 

(混声)ああ青赤交じり紫色

    ああ不思議な色の幸せの世界さ

  

(コーラス)オランガタン

 

(女性)私に青い色の幸せを

(男性)返して赤い色の幸せ

(女性)心を青く染める喜びを

(男性)心を赤く燃やす灯を

(混声)川はあきれ水を引いた

    町を二つにした

 

(混声)ああ空には青い幸せが

    ああ花には赤い幸せが戻った

 

(コーラス)オランガタン