ココボロだとか好きだとか

社会人・通信大学生による独り言と備忘録

レザージャケットへの思い

今週のお題「うるおい」

 

毎年この頃になると、仕舞い込んでいたレザージャケットを引張り出しては手入れをしている。

 

六年前、蝋梅すら未だ咲いていないさみしい季節に、祖父は亡くなった。毎年、祖父を中心に親族中が集まり参拝したお墓に、祖父がいないまま、いや遺骨となった祖父をつれて行くことは現実感に欠けていた。歩く度にざらりと鳴く玉砂利の上を進み、お墓の前へと向かう時には、夏とは異なり誰もが口をつぐみ、じっと納骨を見守るのであった。

 

 

祖父の形見として受け取ったジャケットは、舶来のブランドのしっとりとしたレザーのライダースだった。そのライダースは祖父の還暦祝いに私の父が送ったもので、十五年以上祖父と連れ添ったらしい。定年前に右半身不随を患った祖父は、私の記憶の中ではいつも部屋着の上に青いはんてんを着ており、レザージャケットだなんて少しも彼の印象の中にはなかった。だが、大切にしていたのには間違いがない。だって、内ポケットの中には長年ため込んだであろうへそくりが隠されていたのだから。

少し丸っこくてゆとりのあるそのジャケットは、イマドキかと言われるとそんなこともないのだが格好いい。思い入れがそう思わせているだけなのかもしれないが、私にとってはレザージャケット探しの旅をする必要はないと思うくらいには良い品である(鞄探しの旅なんかは終わったつもりが何度もまた旅が始まっている。靴はボタンブーツによって終わった気もする)。

 

 

うるおい。

そんなレザージャケットだからこそ、手入れは入念に行う。乾燥こそが肌の大敵と謂うが、革も同様なのではないだろうか。

私は革靴を偏愛しているので、そのケア用品には人一倍金を投じてきた。愛用しているのはサフィールノワールのレザーローションで、少し高価ではあるが伸びがよく、深い艶を出せる栄養剤(かつ汚れ落とし剤)は他にないと思っている。

自分の肌にはキュレルの1,500円程度のバームを使っているくせに、靴や鞄に対してはその倍くらいもするクリームを気軽に買ってしまうのは革好きの性なのだろう。

 

きれにレザーローションを取り出してパーツごとに塗り広げる。特に袖先や裾、襟なんかは擦り切れやすいので丹念に行う。しっかりやったせいか一時間くらいかかったが、なんとなく色あせていた部分や弱って見えた袖も潤いを取り戻し、しばらくはまた元気に活躍してもらえそうだ。

 

七回忌の後の食事の場にはそのジャケットを羽織っていった。

「そういえば今日は、あのジャケットを着てくれているのね」

祖母はそう言って、私の体と腕の間に手をまわしいれた。その瞬間、私は間違いなく祖父であったのだと思う。