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大学院生による独り言と備忘録

原子力発電所への攻撃、日本の核保有について

昨今のロシアによるウクライナ侵攻について、原子力に係る話題がよく登るので少しお話をしておこう。

と思ったが、あまりまとまっていない。一番下の文章だけ見て気になればだらだらとした本文も見てもらえれば多少知識の補強になるだろう程度に過ぎないので、期待はしないでほしい。

 

最初の断りとして、私は一介の工学者であって特段電力会社や研究所に勤めているわけではない。第一種放射線取扱主任者試験に合格しただけの一般人に過ぎないことを了解してほしい。

内容としては

原子力発電所への攻撃について

2日本の核兵器保有について

の2点だ。

 

 

1原子力発電所への攻撃について

3/4現在、ロシアがウクライナ原子力発電所へと攻撃を行い、訓練センターで火災が発生した。放射性物質の環境放出は未だ確認されていない。

日本もロシアと領土問題を抱え、原子力発電所だっていくつか所有しているため、他人事と割り切ることは難しいだろう。ただし、前提として仮に戦争時であったとしても原子力発電所への攻撃は国際法にて禁止されていることを忘れてはならない。

問題は、原子力発電所への攻撃がどれほどの影響を生み得るのかということだ。あまり好きではないが、ヤフコメ等では「核兵器を持たずとも、原子力発電所への攻撃を行えば、核攻撃を行ったも同然だ」という旨のコメントが散見される。これには「勘違いがある」と言っていいだろう。

その理由は、原子力発電所核兵器は全く別のものであることと、核兵器による被害のほとんどは爆風と熱戦によるものであることの二つだ。

 

第一に原子力発電所核兵器は全く違う。原子力発電所、特に日本に存在する原子炉では濃縮度5~7%程度の核燃料が用いられ、長時間臨界を継続させてエネルギーを発生させている。一方原子力爆弾の場合はほとんど90%以上の濃縮度の核燃料が必要である。

この濃縮度とは核燃料中におけるウラン235の割合を表している。ややこしいのでプルトニウムは省こう。そもそも炉内部にそこまでプルトニウムは多くない。どう見積もっても10%を超えないからだ。また、ウラン235プルトニウム239とはそもそも何ぞやという話題は面倒だからなしだ。これらの濃度が高いほど、核分裂が起こりやすくなるとだけ考えてもらえれば十分だ。

そして当たり前だが、ここまで濃度が異なれば、瞬間的な爆発力ははるかに劣る。核兵器の場合は一瞬でたくさんの核分裂を起こし、瞬間的にエネルギーを放出させることによって爆発を起こしているが、原子炉ではゆっくり時間をかけて少しずつ核分裂を起こしている。だからこそ、原子力発電所を攻撃したって、核兵器のような被害を与えることはできない。原子力発電所が爆発する原因は基本的に水素爆発(福島は実際に水素爆発によって破壊された)であり、核分裂によるものではない。水素爆発はただの化学変化による爆発であるため、エネルギーが非常に大きいわけではないことも付け加えておこう。

 

そして続いては核兵器による被害についてだ

これは広島平和記念館による資料である。

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(原爆の被害)

我々が想像する核兵器、核爆弾による被害とはそのほとんどが爆風と熱線とによるものである。核兵器と聞くと核分裂を利用しているためいかにも放射線による影響が強いと思われがちであるが、正しい認識とは言えない。皮膚がただれる、ケロイド状になるといったのは基本時に熱線が原因であり、急性放射線障害による傷害ではない。

そもそも、急性放射線障害になるくらい線量の高い場所に人がいるのであれば、放射線障害になる前に、爆風と熱線により死んでしまうだろう。

 

以上のことから、原子力発電所を攻撃したとしても核兵器のような悲惨な状況へは至らない。ただし、チェルノブイリ周辺が放射性物質により汚染されてしまったように、残留放射線(正しくは残留放射性物質)による影響は残るだろう。しかしこれはあくまでも人の命を脅かすものではなく、速やかにその場所から退避することができれば影響が出ないといった避けることが可能な被害であることは強調しておきたい。

 

 

また、日本においても原子力発電所への攻撃やテロリズムがあれば、第二のチェルノブイリになり得るのではないかという懸念がある。まあそれはその通りだ。

3.11以降、外部からの攻撃についての規制も強化され航空機が仮に落ちてきたとしても影響が出ないように防護が為されている。とはいうものの、破壊を目的として攻撃されたらすべてを防ぐことはできない可能性だってもちろんある。その場合は確かに放射性物質の拡散や環境への影響、福島のように避難指示区域が発生する可能性があることも否定はできない。

この点を挙げて、ゼロ原子力を主張するのもわかる。が、前提として原子力発電所への攻撃は禁じられていること、ミサイル迎撃などそもそも攻撃を防ぐ手段も存在すること、また、原子力発電所による攻撃は壊滅的な被害を与えることはできず、国際世論からの反発や様々な問題を孕んでいる。仮に戦時中だとして原子力発電所への攻撃が有用な手立てであるかどうかはやや疑問が残る。まあ実際起こっている以上否定はできないが。

 

 

2日本の核兵器保有について

現在日本は、核兵器を製造することができる原料を持っているといわれている。ただしそれはほとんどの原子力発電所保有国に当てはまる。プルトニウムに限れば確かに日本は有数の保有国である。よく原爆5000発分のプルトニウム保有するといわれるが、それはあくまでプルトニウムを持っているだけだ。それを利用するためには濃度を高め、専用のミサイルを作らなければならない。

例えば、日本では砂鉄がたくさん取れるが、それをもってして日本は鉄に恵まれた国だといえるだろうか。おそらく言えない。なぜなら濃度が低いからである。基本的に工業技術として利用するためには高い濃度のモノが必要だ。多くの鉄鉱石は日本の砂鉄なんかよりもはるかに高い濃度で鉄を含んでいるから、精錬して金属鉄を取り出すことができる。もしも日本の砂鉄のように濃度が低いものから必要な鉄を取り出そうとしても取り出すためにはたくさんの原料が必要だし、取り出すための作業が必要になる。

日本におけるプルトニウム保有も同様だ。国際的な枠組みによる取り決めにより日本はプルトニウムの単体保有を認められていない。もしもプルトニウムを利用したいのであれば、プルトニウムを単体として取り出し、また濃縮作業が必要になる。

日本は濃縮技術も保有しているため、たしかにやろうと思えばできるだろう。しかし、それを国際社会からばれないように行う事はまず不可能だ。原子力発電所ではIAEA(国際原子力機)から定期的な監査を受け、抜き打ちの検査などもあることからばれずに作ったとしてもできるころにはばれるし、ばれたの国際社会からの反発も忘れてはいけない。

また、核兵器とはプルトニウムやウランのみでできているものではない。先にも少し書いたが、専用の爆縮機構やミサイル制作など材料だけではどうにもならない。そのうえ現在では地上の核実験は禁止されており、作成するとしたって実験ができないものをどうしようというのだろうか。まさか、理論はできているから万が一攻撃されたときはぶっつけ本番で使用します。なんていうのだろうか、さすがに無理な話である。

以上のことから、少なくとも誰が何と言おうと現状日本で核兵器を制作することは可能だ、しかし現実的ではない。

 

後は日本が核保有を行う事に対する議論。これは正直触れたくない。私はそもそも原子力発電所に対して賛成でもなければ反対でもない。現状必要な気はしているが、世論がいやだというならやめればいい。ただし、電力コストの増加と現在みたいに原油高上昇による費用圧迫やエネルギーセキュリティーの問題を引き受けることになることは強調しておこう。そして、そんな現在において、わざわざ核保有の議論なんてやめてほしい。

私はかねてから廃止措置や地層処分などに係りたいと考えているが、ただでさえ厭な世論だ。私達原子力発電所核兵器の違いも分からない。放射能放射性物質の違いも判らない。そんな中で地層処分を行うための理解を促進することだって難しいのに、核兵器保有の議論だなんて面倒だ。面倒なだけで必要性を主張する気持ちだってわかる。安全保障のために必要だと言われればそのような気もする。しかし、原子力産業に生きようとする身としては、あまりにも放射線原子力に対する理解が乏しい現在日本において核保有の議論は難しい。もっと放射線教育や原子力教育について力を入れてくれるのであればよいが、私にはまだまだ難しいだろうと思われる。

 

 

以上だ。あまりまとまっていないままだらだらと書いたから、少しまとめておこう。

原子力発電所核兵器は全く異なるため、仮に原子炉が爆発したとしても核兵器のような悲惨な被害は出ないだろう。ただし、チェルノブイリや福島のように数十年立ち入りができない場所が狭い範囲で発生する可能性はある。しかし、これによる人への被害は避難によって避けることができる。

また、日本の核保有に関しては、現在では材料を持っているのは正しいが、作成するにあたり、国際社会から隠し通すことはまずできない。そもそも現在日本は核兵器を作成することは可能であるが、現実的な話ではない。仮に保有した場合は国際世論からの反発があることは忘れたはならない。また、核保有の議論は日本において難しいと考えている。感情的な反発が大きい。感情的な反発それ自体が悪いわけではなく、人間としては仕方ないだろう。しかし、原子力産業へのこれ以上の風当たりはやめてほしいので個人的には反対である。